株式会社トヨタエンタプライズ

第12回:上司と部下を「同時に育てる」、「A3・1枚」という “型”

カテゴリー:

問題解決新入社員のための改善基礎研修業務効率化

キーワード:

人材育成A3資料作成

2026.02.26

PROFILE
島田 悟(しまだ さとる)

株式会社トヨタエンタプライズ 講師
【主な活動】
書籍『トヨタ流DXを支える心理的安全性と仕事のスピードアップを実現する2つのカタ:若手に響く「ものの言いカタ」と「仕事の進めカタ」』 への執筆協力。
◆愛知県出身。実家は金魚問屋。人事歴33年目(全社,技術,パワトレ,車両工場,デジタル変革推進)
◆「トヨタの問題解決(TBP)」創設メンバー。新人〜管理職研修の担当経験あり。
◆資格:EQアナリスト,心理的安全性ファシリテーター,行政書士,宅建士,高校教諭免許(社会)

島田: みなさんこんにちは。講師の島田です。
さて前回のコラムでは、「問題解決8STEP」や「A3・1枚」の文化について解説するとともに、トヨタ流「A3の極意」を身につける3大メリット(※)をご紹介しましたが、今回はその続きとして、さらに具体的に「上司と部下、それぞれの立場におけるメリット」を解説したいと思います。コラムの最後には、皆さんからの質問にもお答えします。

※A3資料作成の3大メリット
1:自ら取り組むテーマの本質を追求できる
2:伝わる=まわりを巻き込む「トルネード化」ができる
3:人財育成につながる


※問題解決8STEPの詳しい説明は前回のコラムをご覧ください。
https://kensyu.toyota-ep.co.jp/column/5973/

トヨタが「金太郎飴」と言われる理由

 みなさんはご存じでしょうか。トヨタの人は「金太郎飴のようだ」と表現されることがあります。ともするとネガティブな例えに使われることもある「金太郎飴」の表現ですが、私はこれが、トヨタの人財の強みを端的にした表現だと思っています。
 どこを切っても同じ顔が出てくる「金太郎飴」—。これはトヨタにおいて、誰と話しても「同じ考え方をしているのでは」と感じてしまう現象を意味していると思います。しかしだからといって、常に「右へならえ」といった画一的な答えが返ってくるということではありません。むしろ、トヨタの社員は議論をすることが大好きな人たちが多いです。
 この「同じ考え方」を支えているのが、「問題解決8STEP」の思考法です。前回もお話しましたが、トヨタでは全社員が入社後に「問題解決8STEP」を「共通言語」として学び、「あるべき姿」と「現状の差」を頭に浮かべ、「原因を整理」し、「対策を検討」する習慣を身につけます。そして、「共通言語」である「問題解決8STEP」の考え方に沿って、トヨタ流の「型」であるA3資料にまとめる訓練をします。
 そしてこの「型」があるからこそ、役職や部署がまったく違っても、お互いの考え方を尊重しながら信頼を築き、同じ土俵で議論ができるのです。
 たとえば、「部署の室温が高すぎて、仕事がはかどらない」というような部署内の身近な問題であっても、「経営を左右するような重要な問題」であっても、考え方や手順は全て同じです。そう、考え方はまさに金太郎飴のよう。そして、これがトヨタの強みにつながっているのです。
 前段が長くなりましたが、ではさっそくA3の極意を取り入れた場合に「上司と部下」がそれぞれの立場で感じられるメリットを見ていきましょう。

トヨタ流「A3の極意」を身につける「上司・部下」それぞれのメリット

■上司にとってのメリットは?

1:部下の「考えた過程」が一目でわかる!
トヨタ流のA3資料作成を仕事に取り入れると、上司は部下の「結果」を見るだけでなく、「考えた過程」を一目で確認できるようになります。部下がその仕事に対して、何を問題として捉えたのか、あるべき姿をどう設定したのか、また、現状とあるべき姿の差をどう見たのか—。
A3資料作成では、こうした思考の流れが一枚に整理されるため、もし部下に、間違いやつまずいた部分があれば、それにもすぐ気づくことができます。さらに「なんとなく違う」という感覚的な指摘ではなく、「ここは事実か」「目的は何か」と問いを投げながら、わかりやすく指導することが可能になります。

2:他部署も巻き込んだ、組織横断がしやすくなる!
また、A3資料では問題解決の手順そのものが社内で「共通言語化」されているため、同じチーム内だけでなく、立場や部署が違っても話が通じやすいのが特徴です。たとえ自部門だけでは完結しない課題であっても、問題の捉え方や考え方が共有されていることで、他部署に説明しやすく、理解や共感を得やすくなります。

3:A3はOJTツールそのもの!
A3資料の作成はOJTのツールとしても機能します。仕事のやり方そのものを、問題解決の順序に沿って教えることができるため、人によって教え方が変わる属人的な人材育成ではなく、問題の捉え方や考える順序を「共通の型」として教えられるようになります。
また上司は教える過程で自分自身の理解も深めることになり、部下の育成と自らの成長が同時に進むのもポイントのひとつです。

【A3導入…上司のメリット】
・部下の思考プロセスを具体的に把握できる
・A3の指導はOJTに直結。仕事の進め方そのものを教えられる
・問題の定義や目的を共有しやすい
・議論の前提がそろう
・判断の軸を組織内で共有できる
・他部署にも説明・展開しやすい
・組織横断の課題に取り組みやすくなる

次は部下の視点からも見ていきましょう。

■部下にとってのメリットは?

1:ロジカルに考える力が身につく
A3資料作成に取り組む過程では、「あるべき姿は何か」「現状はどうか」「現状との差は何か」と順を追って考えます。この過程で必ず必要となるのが、「ロジカルシンキング」です。感覚や印象ではなく、事実を押さえ、因果関係を考えながらデータで説得力を増していくスキルを身につけていきます。

2:自分の立ち位置が明確になり、モチベーションが高まる
さらに、自分の仕事のテーマが会社や組織の方針の中でどこに位置づいているのかを整理できるため、自分の立ち位置が明確になります。
会社員として働くと、「自分は何のために働いているのだろう?」「ここで働く意味・意義はあるのだろうか?」という疑問や悩みを持つこともあると思いますが、「あるべき姿」までしっかりと明確にすることで、自分が何のためにこの仕事をしているのかが腹落ちし、納得感が生まれます。これは仕事に主体的に取り組もうとする姿勢にもつながります。
また、「共通言語化」されたA3資料をもとにすることで、上司や他部署の担当者とも説明が噛み合いやすく、対話が深まります。こうなれば、仕事へのモチベーションアップにもつながりやすくなると思います。

3:OJTを通じ「考え方そのもの」が身につく
A3資料作成を取り入れたOJTでは、自分の「どこが弱いのか」「なぜそう考えてしまったのか」など、弱点や間違いを具体的に指摘してもらいやすくなります。さらに仕事を通じて「考え方そのもの」を学ぶこともできます。また、考え方が一貫した経験は身につきやすく、その経験はより深い思考力となって蓄積されていきます。

【A3導入…部下のメリット】
・ロジカルに考える習慣が確実に身につく
・仕事を通じて思考の型を学べる
・自分の立ち位置が明確になる
・仕事の目的を「そういうことか!」と真から腹落ちさせられる
・上司との議論が成立しやすくなる

上司も部下も、守破離で成長する!

私はトヨタの「問題解決8STEP」や「A3・1枚」の文化は、日本の伝統芸能全体に通じる哲学「守破離(しゅはり)」の考え方に似ていると思っています。
守破離とは…まずは型を忠実に守り【守】、
次に型を工夫して深め【破】、
そして最終的には自分の芸を確立する【離】 こと。
A3資料作成で例えると…
ロジカルに考える手順・型を具体的に学び【守】、
その型を自分なりの視点で応用しながら、使いこなし【破】、
最後には、型を意識しなくとも自由自在に操ることができる段階へと成長する【離】。 
そして大切なのは、そこには「本質」が詰まっている、ということです。

守破離のプロセスを通じて、上司も部下も共に成長していく。これはまさに、トヨタ流「A3・1枚の文化」の真の価値だと私は考えます。

ここからは皆さんから多くいただく質問にいくつかお答えしたいと思います。

●他の研修会社の一般的な資料作成研修と、この「A3の極意」との違いは何でしょうか。
 一般的な資料作成研修では、資料の構成方法や見せ方や図表の配置など、「どう書くか」「どう見せるか」を中心に解説されることが多いようですが、「A3の極意」は、資料づくりというよりは「仕事の考え方」を学ぶ研修です。資料の見た目を整える前にまず「頭の中を整理」し、思考の順序やプロセスを磨くノウハウを学んでいただきます。
 また、こうした土台としてロジカルシンキングも身に付き、重ねて、仕事の進め方そのものを学ぶ機会ともなります。
 A3の極意を身につけると、まず仕事の進め方そのものが変わり、「スピード」が格段にアップします。また、本質を常に問いながら仕事を進めるため、仕事の質も向上します。
 そして、A3資料作成が、一般的なPDCAと特に違うのはP(計画)の部分です。A3資料作成ではこのPにあたる「問題は何か」「あるべき姿はどこか」「現状との差は何か」を徹底的に考えます。ここを曖昧にしたまま進まない、というのも研修の大きな特徴です。

●「A3の極意」を身につけると、事業や組織にどんな変化が起きると予想できますか?
 例えば部署単位で「A3の極意」を身につけられれば、個人のスキルだけでなく部署全体のコミュニケーションや仕事の進め方も変わってきます。上司も部下も同じ型で考えられるようになると、議論の前提がそろい、言いたいことも伝わりやすくなります。
 さらにこうした考え方が組織全体に広がると、部署や立場の違いがあっても共通のフレームで議論ができるようになります。結果として、意思決定が早くなり、周囲を巻き込みながらより大きな課題に取り組めるようになり、組織の一体感も高まります。

●部下に仕事を教えるとき、まず教えるべきことは何だと思われますか?
 まず「何が問題なのか」「あるべき姿は何か」を考えてもらうことが大切です。その上で、現状と理想の差を明確にし、その差が本当に解決すべき課題かを確認します。トヨタでは「目的は何か」「なぜそう言えるのか」と自分自身に問い続ける姿勢が新人時代から鍛えられていきます。

●資料をまとめるのが苦手です。つまずくポイントはどこでしょうか。また、この講座はどう役立ちますか?
 何を伝えたいのかが定まらないまま書き始めてしまうことが、つまずきの第1歩ですね。この研修では、資料作成をステップにして誰にでもわかりやすくなるようにしています。どんな業種にも生かすことができるので、「相手に伝わる」資料づくりを学びたい方には大いに役立つと思います。

●AI、DXなどとA3資料作成の思考を併用する場合の留意点はありますか?
 AIは便利なツールですが、「何が問題か」「どんな姿を目指すのか」が明確になっていなければ、表面的には整った答えが得られても、根本的な課題解決には至らない可能性が高くなります。一方で、目的や前提が整理された状態であれば、AIは情報収集や比較検討、仮説の洗い出しなどに有効に機能します。DX時代においても思考の主体はあくまで人にあります。AIをうまく使いこなすためにも、「問題解決8STEP」やA3の資料作成のような手法で問題解決力を身につけることはかなり有効だと考えます。

最後に、実際に「A3の極意」を受講されたみなさんからの声をご紹介します。

●問題解決は仕事そのものだという点は、当たり前のようで気づけていない部分でした。仕事の指針になりました。
●A3用紙一枚で簡潔に資料をまとめるというテーマでイメージしやすかった。実際にトヨタで使われる8ステップなどの内容も取り入れた説明がよかった。
●紙芝居形式だったこともあり、頭にすぐにインプットできました。印象的な研修でした。
●実行するためには周囲を巻き込むための資料作成が重要であることを学べました。
●最後の演習が意外と難しかった!でも勉強になりました。

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