第11回:トヨタ流A3の極意 「A3・1枚」の文化が創る、問題解決DNA
カテゴリー:
問題解決新入社員のための改善基礎研修業務効率化
キーワード:
人材育成A3資料作成
2026.01.08
PROFILE
島田 悟(しまだ さとる)
株式会社トヨタエンタプライズ 講師
【主な活動】
書籍『トヨタ流DXを支える心理的安全性と仕事のスピードアップを実現する2つのカタ:若手に響く「ものの言いカタ」と「仕事の進めカタ」』 への執筆協力。
◆愛知県出身。実家は金魚問屋。人事歴33年目(全社,技術,パワトレ,車両工場,デジタル変革推進)
◆「トヨタの問題解決(TBP)」創設メンバー。新人〜管理職研修の担当経験あり。
◆資格:EQアナリスト,心理的安全性ファシリテーター,行政書士,宅建士,高校教諭免許(社会)
島田:はじめまして。講師の島田です。こちらでコラムを書かせていただくのは初めてとなりますが、よろしくお願いします。まず簡単に自己紹介させていただくと、私は自動車メーカーで在籍33年目を迎えています。これまでは、一貫して人事関係の業務に携わらさせていただき、特に、会社全体の人財開発機能に在籍していた際には、問題解決カリキュラムやの開発・運営も担当してきました。
さて、今回のコラムは大幅にリニューアルした「トヨタ流A3の極意~一目で伝わる資料作成講座~」についてです。
これを聞いて「ああ、トヨタの何でも資料をA3・1枚にまとめるってやつですよね? 聞いたことあるなあ」と思われた方は少なくないと思います。
さらには「まあトヨタ流というくらいだから効率は良さそうだけど、自分や自社では使えないんじゃないかなあ?」と感じられた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そこでここでは、「トヨタ流A3資料作成術」を理解・実践できると、皆さんや皆さんの会社にどのようなメリットがあるのか? をご説明するとともに、今回、大幅にリニューアルさせていただいた「トヨタ流A3の極意~一目で伝わる資料作成講座~」の内容をよりわかりやすくお伝えしたいと思います。
◆トヨタを支える、「A3・1枚」の文化
トヨタでは、A3資料作成という文化が根付いています。 具体的に言うと、「多くの情報であっても、短時間で、誰もが、ひと目で理解できる資料づくり」に徹底的にこだわっていくという職場文化が醸成されているということだと考えています。これは、「人の時間は、命そのものである」という先人たちの教えによる部分も多いと感じています。
また、最近では、A3に限らずA4だったり、パワポなどで作成したりと資料のスタイルは、個人や職場で最適化されるようになりましたが、こうした「A3・1枚」の本質が変わることはありません。
さらに説明を加えると、トヨタ流のA3資料は、『問題解決8STEP』に沿って用紙1枚にまとめたものということになります。実際のA3・1枚の資料のイメージは以下のような感じです。

トヨタ流A3・1枚の資料のイメージ
ここで、問題解決8ステップについて、もう少しご説明しておきます。
まず、トヨタでは「問題を解決する」=「仕事そのもの」だと考えられています。トヨタ生産方式を築いた大野耐一氏による「問題が分からんやつが、一番困ったやつだ」という言葉はトヨタパーソンなら誰でも知っていると思うのですが、トヨタでは全ての従業員に対して、「お客様の立場で、自ら問題を発見し、解決していく人財になってほしい」というメッセージを発信しています。
『問題解決8STEP』とは、「問題の明確化」から始まる8つのステップのことです。問題が解決されるまでの道筋が言語化されているので、世界のどの地域のどんな方にもわかりやすくなるように配慮された設計となっています。現在、トヨタ流問題解決は、トヨタ・ビジネス・プラクティス(TBP)として海外の生産拠点等に展開されています。
問題解決の8ステップとは

※問題解決8ステップについて、こちらのコラムでも詳しく解説しております。ぜひご覧ください。
◆A3資料作成における3つのメリットとは?
では、A3資料作成の話に戻りたいと思います。 私はトヨタ流の「問題解決8STEP」に沿ったA3資料作成には、大きく分類して3つのメリットがあると考えています。
1:自ら取り組むテーマの本質を追求できる
A3資料は、「テーマ」=「問題」の「解決」までをわかりやすく表現する、いわば補助ツールです。しかし補助ツールとはいっても、そこにはその問題の「本質」が詰まっています。
多くの情報を1枚の紙にまとめるためには、余分な装飾や形容を省き、本当に必要なことだけに絞って記述する必要があります。こうした頭の使い方こそが「本質の探求」につながっていきます。さらには、8つのステップで筋道を立てて考える訓練を繰り返すことで、汎用的なロジカルシンキングの力が自然と身に付いてきたりします。
2:伝わる=まわりを巻き込む「トルネード化」ができる
本質がしっかり視える化されている資料では、言いたいことを相手にダイレクトに伝えることができます。
そして、8ステップという共通言語(思考プロセス)を使って説明するため、相手も理解しやすく、周りのメンバーの共感も得やすくなります。一言で言うと、周囲を大胆に巻き込んでいく、「トルネード化」が可能となります。
まわりを巻き込む「トルネード化」は、仕事が大きくなればなるほど、その威力を発揮していきます。多くのメンバーが自らのテーマに共感することで、「一気呵成(いっきかせい)」に物事が進んでいくことになります。
3:人財育成につながる
8ステップという共通言語(思考プロセス)を使った資料作成術は、学ぶ側にわかりやすいだけでなく、教える側にもブレが出にくいのも特長です。新人からベテランまで、問題解決という共通言語を持っていることの重要性は、その効果が計り知れません。例えば、「今、問題あるかなあ?」と誰かが問えば、この言葉を聞いたメンバーは、「問題=あるべき姿やありたき姿と現状とのギャップ」をイメージする訳です。何をしていくのにも、より高いスタート地点から始めることができるのです。
併せて、資料作成という問題解決の職場実践を通じて、思考力や分析力、コミュニケーション力を総合的に高めていくことも期待できます。
トヨタの社員は、事務エリア、技術エリア、製造エリアの各メンバー全員が問題解決8ステップを学んでいきます。こうした「共通言語」があるからこそ、多種多様な業務が存在するトヨタの職場でも、お互いの考え方を尊重しながら、「仲良くケンカ」ができると感じています。
また問題解決の8ステップは、数学で言う、公式のようなものだと思っています。一旦身につけてしまえばどんな問題でもそれに当てはめて考えることができるので、例えば、立場や役職が変化したとしても、広く応用することができるのです。
「企業文化は戦略にも勝る」といわれますが、問題解決のDNAを育んだトヨタ流のA3・1枚の文化はまさにそれを体現しているのではないかと思います。
◆トヨタの問題解決8ステップが30分で記憶に焼き付けられる手法とは?
ではここからは、大幅にリニューアルした講座内容についてご説明させていただきます。本講座ではまず「トヨタ流A3の極意とは何か?」として、トヨタならではの資料作成の考え方や手法を深掘りするとともに、先ほどの問題解決8ステップをしっかり理解していただいた上でA3資料を実際に作成する演習に進みます。
問題解決8ステップの理解は資料作成の肝となるため、深く理解・イメージしていただくために、今回からオリジナルの創作日本昔話として仕上げた紙芝居、「花咲(はなさか)トヨタロウ」を使用しています。
これはご想像通り「花咲じいさんと桃太郎」をモチーフとした創作ストーリーで、鬼による村のさくらんぼ被害を解決するまでの手立てを皆で考え、成功させる物語となっています。

創作日本昔話「花咲(はなさか)トヨタロウ」
でも、「え? 研修に紙芝居? 分かりやすいのはいいけど、内容が子どもじみているかも。仕事に活かせる内容なのか?」と思われた方も多いのではないでしょうか?
確かに、その通りだと思います。私自身の経験からも、研修ってちょっと小難しく感じる内容の方が、「勉強した感」が得られやすいように思います。
実は、この研修を設計する際に、研修作成プロジェクトメンバーで一番時間を割いて議論したのがこのポイントしでした。そして、その結論として、受講していただく皆さん一人ひとりには、「今日から実践できる問題解決とA3資料作成のノウハウを学んでいただきたい」ということになったのです。確かに、皆さんが身につけたいのは「した感」ではなく「今日からやれる」ということだと思います。ですので、本講座では、次の2つを狙いとして、「紙芝居方式」を採用しています。
●イメージを中心とした、理解度のスピードアップ化
●既存知識を最大限活用した、受講内容の高い定着化

創作日本昔話を元にしたインパクトのあるストーリーは、脳内インプットを強力にサポートします。重ねて、有名な物語をモチーフにしているので登場人物などもすぐにイメージでき、核心部分に集中できるのもメリットです。問題解決8ステップは、紙芝居を含んだ30分でしっかりとイメージしていただけるだけでなく、今後、職場で問題解決を実践していく際に真っ先に頭に思い浮かべていただくことで、「自分だけの問題解決のひな型」となります。これが「花咲(はなさか)トヨタロウ」という紙芝居のからくりなのです。
講座では紙芝居を見ていただいた後、ストーリーを元に8ステップを1つずつ解説していきます。合わせて、資料づくりのポイントとなる、目的、YOU視点、タイトルのつくり方等への説明を加えながら、「A3・1枚」の資料にまとめる演習を行います。

「花咲(はなさか)トヨタロウ」のストーリーに沿って、鬼による村のさくらんぼ被害を解決するまでの8ステップを「A3・1枚」にまとめる演習を行います
◆即戦力につながる60秒プレゼンや、セルフチェックシート
「A3・1枚」にまとめた後は、そのA3を素材として「さくらんぼの鬼被害撲滅の解決案」について、各人に、60秒でプレゼンしていただきます。
A3にまとめるだけでも、かなり贅肉をそぎ落とさなければならないのですが、60秒のプレゼン発表となるとさらに説明内容の絞り込みが必要となりますので、このトレーニングを行っていきます。
さらにこの講座では、自分の仕事にこの研修がすぐ生かせるよう特典付録として「トヨタ流A3セルフチェック33」を付けています。このチェック表を使えば、自分の仕事上の問題点におけるトヨタ流A3資料を作成していただくことができます。
人事担当の方とお話すると「型破りだといわれるくらい、発想力が豊かで、行動力のある人財を育てたい」というようなリクエストをいただくことがあります。このリクエストについて、いつもわたしがお話しているのは、「型破りをするためには、まず、型を使いこなせていることが必要になります。
問題解決8ステップやA3・1枚の資料作成術は、まさにこの型なのです。型をしっかりと習得し、自由自在に使いこなし、さいごに型を破って新境地に至るという、まさに、守破離の体現です」という内容です。
まずは、型をしっかりと習得していくことに専念していくことが大切だと改めて感じている今日この頃です。
次回のコラムでは、A3資料作成におけるさらなるメリットのほか、よくある質問・疑問などにお答えしたいと思います。
トヨタ流の問題解決手法「8ステップ」の基礎を詳しく学びたい方には、こちらの研修がおすすめです。